『劇場版 若おかみは小学生!』はアイカツ!のフレーバー香る傑作

『劇場版 若おかみは小学生!』、公開が終わる前に三島のシネプラザサントムーンで観てきました。
原作、漫画、TVアニメ全て知らなかったので観る前は不安でしたが、劇場版で初めて観る人でも問題ない程度に作中でキャラクターの説明がなされていたと思います。


この作品の大きな特長は、主人公の関織子=おっこがとても魅力的に躍動していることです。この可愛らしい若おかみを最大限に活かすよう視覚にも心情にも細やかな労力が費やされているのを感じました。高坂希太郎監督に白羽の矢が立った所以でしょうか。そういえばウリ坊の回想シーンで屋根から落ちそうになる峰子にウリ坊が駆け寄るシーンは『天空の城ラピュタ』のパズーを思い出しました。総じて細かい動きに魅力がありました。
「花の湯温泉のお湯は、誰も拒まない、すべてを受け入れて、癒してくれる」をキーワードとして、心身にトラブルを抱えた宿泊客に対して全力で向き合っていくおっこの姿が小気味良い。大人向けの作品ではないので旅館業を詳細に掘り下げていくことはなく、おっこの成長描写に注力していたように思います。


おっこが交通事故で両親と死別し、祖母の旅館に引き取られた序盤から終盤まで、おっこの夢や空想には何度も両親が登場します。また、水領さんとモールに買い物に行く道中ではトラックを見てショックが蘇り過呼吸を起こしてしまいます。両親の死はおっこにとって克服するにはあまりにも辛い出来事。しかし、そのトラックを運転していた男=木瀬文太とその家族が宿泊に訪れる。なんという恐ろしい話を考えるんだ。
そしておっこが木瀬を許す/許さないという描写をするのではなく、宿泊客として木瀬家族を受け入れる、そういう健気な「若おかみ」としての決意をさせるところが大変力強く、その後の神楽の舞いまでの画面に描かれない努力にも説得力を持たせていて見事です。


この作品、なぜか自分のTL上のアイカツ!ファンに好評な印象で、女児向けの児童文学が原作の女児アニメだからウケてるのかな?と思っていたのですが、観て理由が分かった気がします。
まず原作が児童文学ということで、基本的に悪意の無い優しい世界という部分がアイカツ!の世界にも通じます。
また主人公のおっこが大人相手のおかみ業を体当たりでこなしていく過程、あかねにケーキを食べさせてあげるために夜の温泉街を駆け回ったり、食事制限の厳しい木瀬に満足いく食事を提供するために喧嘩後で気まずい真月に助けを求めに行ったり、木瀬家族を受け入れるという超人的な決断をしたり、なんかアイカツ!シリーズ初代主人公の星宮いちごの天然スーパーマンぶりを思い出す感じがあり、また頑張っている女の子を見て元気を分けてもらうというアイカツ的楽しみに通じるものもある。
そのあたりがアイカツ!シリーズファンの琴線に触れているのかもしれないですね。


その他印象的なシーンについて、Twitterでも書きましたが水領さんとおっこが買い物に行く途中トラックを見ておっこが過呼吸になるシーン、おっこが人形を握りしめる強さの描写から始まり徐々に心の動揺が強くなっていく様が生々しい。そして心を落ち着かせて再びモールに向かう際に水領さんが曲を再生して「ジンカンバンジージャンプ」が流れ出す瞬間のカタルシスが、本当にどストレートに気持ち良いです。曲をかけようとする水領さんの軽やかな手の動きで「今から超気持ち良いBGMかかるから覚悟しろ」と画面に言われた気がしました。
花の湯温泉郷有馬温泉がベースになっているそうですが、真月が温泉街をアピールするために色々考えて主導しているシーンも凄く良くて、山を流れる大量の鯉のぼりのシーン、秋好旅館の花畑をライトアップするシーン、どちらも美しく印象的でした。小学生ながら何でもできる真月もなかなか「普通」じゃありません。劇場版はおっこの成長にフォーカスされていたので、TVシリーズでは真月がどのように描かれているか気になります。


最後にキャストについて、劇場版ということで俳優、子役を使わざるを得ないのは仕方ないことと思いますがそれは未だ声の付いていない追加キャラに対して充てるべきで、既に声優が声を当てているキャラのキャストを交代させていることは残念です。せっかくこれだけ素晴らしい作品なのだから。
TVアニメ版を見ていない私が言うことではないと思いますが、気になりました。


以上です。